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 ガシャン  勢いよく立ち上がったので、携帯が床に落ちた。そんな事気にもせず、ぐるっと360度見渡しながら、 「どこかにいるんでしょ。どこにいるの!」  大声で叫んだので、周囲のお客さんたちの視線が美雪に集まった。 「はぁはぁはぁはぁ」  美雪は肩で息をして、髪の毛は乱れて、  黒い服が、危機迫る不気味さをさらに増幅させている。 「あの日の落ち着きはらった態度は、調べてたのね。だから……マンションまで来て、馬鹿にして、あの女……」  立ち尽くして、ブツブツ独り言を呟く美雪を遠巻きにするお客の輪ができかけている。 「お客さま、大丈夫ですか」  スタッフ二人が美雪の側に駆け寄ってきた。 「大丈夫です、すみません。お騒がせしまして」  美雪はスタッフを避ける様に半分背を向けて静かにソファーに座った。 「ご気分が回復されるまで、どうぞ、救護室にご案内します」 (あぶない客だから連れ出そうっていうの?そんなとこに行けば、彼を追えないじゃない) 「もう、大丈夫です。ありがとうございます。ここで、待ち合わせしてますので。もうくると思いますから」 「何かございましたら、近くのショップでも結構です。従業員にお申し出ください」  男性スタッフは優しい笑顔だが、隣の女性スタッフには笑顔がなかった。私が嘘をついているのを見抜いているのだろう。去っていく後ろ姿を見ていたら、女性スタッフが男性スタッフへ何か言っている。私への対応が不満なようだった。  そして、彼の奥さんも、私の嘘に気付いていた。  あの日、着ていたカシュクールニットワンピースもハイヒールもバッグも、彼からのプレゼントなんかじゃない。美雪が自分で買った物だった。  わかっていて、だから、「あなたも大変ね」 って、見下すように、ほくそ笑んでいたのね。  美雪は突き指しそうな勢いで、忌々しい三枚の写真を削除した。  
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