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九月初旬、まだ真夏といってもいいぐらい朝から三十度越えの東京。
通勤通学や、仕事終わりの人、観光客、様々な人間交差でごった返している、朝7時過ぎの渋谷。
「あの、あの、すみません」
艶やかな黒髪のボブヘヤにはっきりした目鼻立ち、長い脚が際立つ黒のパンツスーツ、ジャケットの下はやや深めの白いVネックシャツ、黒の大きめバッグを斜めにかけ、黒いウェッジソールパンプスでスタスタ歩く女性は、か弱い声に思わず振り返った。
うつむいている少女がハンカチを差し出していた。
「あの、何か」
人が行き交うので二人は必然的に歩道の端に寄った。
「落とされました……」
少女が持っているハンカチに目を落とした。
「ごめんなさい。私のではないです」
「あっあっすっすみません。間違えました。ごめんなさい」
少女は慌ててかなりテンパっている様子で、おでこに手をやり、くしゅくしゅっと前髪をさわった。その拍子に、目を隠していた簾のような前髪がふわっと上がって
一瞬顔が見えた。
女性は少女の顔を見て、雷が落ちたような衝撃を受けた。
(可愛い、いや可愛いだけじゃない)
恐縮して肩をすくめる少女から目が離せない女性は、思わず心の声が出てしまった。
「この子……ダイヤの原石」
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