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「こういう時はさ、泣いていいと思う」
「泣かない、泣かないよ。大丈夫よ」
「泣いていいよ。あの場では我慢したんだろ。ここでは泣いていいよ。俺しか見てない。腹の中にため込まないほうがいい。」
ただの同期に泣いていいよと言われるなんて…と思ったけど、真剣で優しい言葉を聞いていたら、なんだか広瀬の顔がにじみだした。
気が付いたら、どんどん涙があふれてはこぼれ落ちる。
止まらない。止まらない。
いろんな思いも一緒にこぼれ落ちていく。
なんだったんだろう、誠さんとの半年間。走馬灯のようによみがえる。
あとからあとから涙が続く。
楽しかったのに。
あんなに好きだって言っていたのに。
あんなに好きだって言ってくれたのに。
あ、でも会うのは私の部屋ばかりだったな。
外でのデートは理由をつけてなかなかできなかったよな。
週に一回ぐらいしか会えなかったな。
みんなには内緒だったな、そらぁそうか、不倫だもんね。
ばれたらおしまいだもんね。営業部の部長は愛妻家で家族LOVEな人だからな。
夜になると飼っている犬が心配だといって絶対に泊まらなかったな。
あ、そうか、家庭があったからだよね。犬だけじゃない。犬扱いするなんて馬鹿だな。
だから週末はなかなか会えないし連絡も取れなかったんだ。
あんなにきれいな奥さんがいるのに、かわいい子供がいるのに、なにしてるんだろう。
ばっかじゃない。
誠さんも、私も…
ほんと、私ってだめだ。だめだ。
ネガティブな自分が顔を出そうとする。だめだ。ネガティブな私には会いたくないのに。
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