さよならには涙を

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「あとストレス解消にいいのは…」 広瀬くんが膝立ちで1歩、2歩と近づいてきたと思ったら、私は急に安心できる暖かさに包まれた。 あたたかい。 彼の頬が私の右の頭に触れている。 彼の両手が私の背中に回っている。 そして耳元で優しく響く広瀬の声。 「もう少しね」 暖かさと、彼のまとう空気になんだかほっとして目を閉じると 「はい」 手に力が入った、と思った瞬間、広瀬くんが離れた。 「ハグにもね、ストレス解消効果があるんだよ。どうだった?」 なんなんだ、この甘い空気を出す広瀬くん!!! いままでただの同期だった。つい1時間前まではこんなに近づいたこともなかったのに。 無口で正直何を考えているかわからないとずっと思っていたのに、何この手慣れた感じは! 失恋したばかりに加えて甘い広瀬くんの態度で、恋愛スキルレベルが低い私には許容オーバーぎみ。 「え~っと、え~っと。ストレス解消は…」 ストレスというかなんか、いっぱいいっぱいだ。 今まで失恋した時は、なくした恋のことばかり考えて考えすぎて、他のことが頭にも体にも入る余地がなくなっていたのに、広瀬くんの行動のおかげでなくした恋以外のものがいろいろ流れ込んできている気がする。 ストレスが解消されたというか、なんだろう、新しい感情で心も頭も体もいっぱいになりそうだ。
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