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携帯を見ているときは口元を少し緩めた広瀬くんが真剣な表情に変わった。両手を私の方に置き、しっかり視線を合わせて言葉をつなぐ。
「もし田代課長から連絡来ても、もう会わないほうがいい。二人きりで会わないでほしい。もうこれ以上傷つけられてほしくない。」
「うん。ありがとう。ほんとうにありがとう。いっぱい泣いたからなんかもうすっきりした。広瀬くんってさ、普段あまりしゃべらないのに周りのことよく見ているし、気持ちをつかむのが本当に上手だよね。さすがだ。こんなに話したことなかったよね。なんか、いままで損していた気分。もっといろいろ話したり仲良くすればよかったよね。去年の10月まで同じ営業にいたのにさ。今日はほんと助かった。同期でよかった。助けてくれてありがとう。次は私が助けるからね、いつでも頼ってね。あ、けど広瀬くんを助ける場面なんてきっとないだろうな。私よりしっかりしてるもんね~」
感謝の言葉は尽きない。ちょっと早口で言葉をつないだ。
けど、ありがとうしかでてこなくって、少し自分の語彙力を恨む。
「周りのことをよく見ているわけじゃない」
広瀬くんがぽつりとつぶやいた。
「ん?」
「野々村のことやから、よく見ていた。
俺さ、ずっと好きやってん」
「ん!!!!!!!!!」
今までないほど目を見開いてしまった、もう少しで眼球が落ちてしまうほど。
「返事とかいらんから。知っていてくれるだけでいいねん」
さっきまでしっかり目が合っていたのに、急に目も合わせずにぽつりぽつりとこぼれる言葉。
普段とは違う言葉遣いに胸がきゅんとする。
え?関西弁?普段広瀬くんの口からは聞いたことがない言葉に驚いて返事ができない。
驚きすぎている私を見て、広瀬くんはいつもみたいにふっと口先だけで笑う、
そしてじゃあなと広瀬くんが帰っていった。
なんだろう、心が暖かい。っていうか熱い。燃えるようだ。
失恋して、
告白されて、
告白されたよね?
答えはいいからと去っていった。
これってどうしたらいいやつ?
しかも関西弁でっていうところに妙にきゅんと来た。
この日の夜、誠さんのことを一秒も思い出すことはなかった。
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