1/1『冬のアイスとコタツを彼女と』

1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/366ページ

1/1『冬のアイスとコタツを彼女と』

 急にアイスが食べたくなって、彼女のリクエストと共に家を出る。道には初詣に行く人、帰る人たちがちらほら。俺らも初詣帰りに買い出ししとけば良かったな~と後悔しつつ、徐々に冷えていく指先をポッケにつっこんで歩く。  近所のコンビニでアイスやらおやつやらを買い込んで帰宅したら、さっきまでコタツでぬくもっていた彼女がキッチンで作業していた。 「あれ? どしたの?」  コンビニ袋の中身を冷蔵庫に移しながら聞くと 「急に餃子食べたくなって。しかも水餃子」  彼女は手元を見たまま答えた。手には餃子の皮とタネ。 「すごいね、いつのまに仕込んだの」 「皮は市販、中身は冷凍の作り置きだよ」 「いや充分すごいよ。一緒にやる」  冷蔵庫を閉じて言うけど、 「大丈夫だよ。寒かったでしょ、おコタどーぞ」  って促されてしまった。 「じゃあ……手伝えることあったら声かけて」 「うん、ありがとー」  こちらを向いてニッと笑う彼女は、年が明けても可愛い。  そんな可愛い彼女のお言葉に甘えて、冷えた手足をコタツに突っ込んだ。じゅわ~っと熱が浸透してく。 「正月くらいゆっくりすればいいのに。年末、おせち作るのだって大変だったでしょ?」 「おせちは半分以上買ってきたやつだもん。それに、なんか汁物が欲しくて」 「それはありがたいけど」 「もしかして焼きのがいい?」 「ううん? 久しぶりに食べたい」 「そう? なら良かった」 「……ありがとね、色々」 「うん」  少し照れたように笑った彼女がとても愛おしくて、ギュッてしたくなるけど作業の邪魔になるかと思いとどまる。  彼女が作業する姿をしばらく見つめていたら、なんだか心まで温かくなってきて、ソワソワしだしてコタツから出て彼女の隣に立つ。 「座ってて大丈夫だって」 「充分あったまったから。邪魔じゃなければ一緒にやる」 「んー、じゃあ、こっち半分お願いしまーす」 「はーい」  解凍したてっぽいタネと冷蔵庫に入っていただろう皮が案外冷たくて、ほてった指先に心地いい。  二人で包む手さばきを褒め合いながら、水餃子を完成させた。 「んー、うまぁい」 「それはよかった」  彼女は俺の反応を見て、自分でも一口ほおばる。 「ん、おいひい」  食卓には水餃子入りの野菜たっぷりスープと、今朝から置かれている色とりどりのおせち。テレビからは長時間放送中のバラエティ特番が流れている。うーん、幸せ。 「そういえばアイス食べ逃した」  到着後すぐにコタツの中で食べようと思っていたのに。彼女の言外にそんな思いが見える。 「デザートにすればいいじゃん。水餃子であったまってるし」 「えーやだ、太る」 「いいよ別に。俺そういうの気にしない」 「私が気にするの~」  なんて言いつつ、彼女はどこか嬉しそうだ。  充実の夕食を終え、二人並んで食器を洗う。  このあとご褒美にアイスを食べる約束をしてるから、いつもは面倒な作業も捗った。  彼女と一緒なら今年も、この先もきっとずっと幸せでいられるだろうなって思いながら暖房のきいた部屋で彼女と一緒に食べるアイスは、格別に美味しかった。
/366ページ

最初のコメントを投稿しよう!