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四日して裕樹から電話が やっとかかってきたのは、 裕樹以外が直樹のマンションへ 集まっていた夜だった。 「大丈夫か?!」 いつもの冷静さなど 欠く自分の声の響き… 直樹自身が驚いていた。 だから、裕樹も その直樹を心配して 「誰に聞いたの?大丈夫!  大丈夫だよ、心配ない」 明るい声。 「親父の命には別状ない。  ただ、店が忙しくて  なかなか連絡取る暇が…」 栃木足利で洋食屋を営む 父親に代わり、裕樹が 厨房に立っているらしい。 「おかげで雑誌の新人賞に  応募しそびれちまった、  ハハハ」 “しそびれた”わりに 元気そうな声に 直樹は安心と小さな疑問を。 (いつもより“賞”に  執着していない…) 「なんだ?また飲んでるの?  ほどほどにしとけよ。  じゃあ、落ち着いたら  東京へ戻るよ」 病状もさることながら 『東京へ戻る』 この言葉が、それが一番 直樹をほっとさせていた。
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