サイドA

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自死を選んだその女優は、日本で知らないひとはいないくらいに有名な女性だった。 女優のなかでも取り分けて美しく、才能があり、お金が(おそらく)あり、健康で、家族がいた。二児の母だったが、下の子はまだ一歳くらいだった。 地獄に落とされたようなこころもちだった。目の前が真っ暗になった。次いで沸いてきたのは、怒りの感情だった。 なんで?! よりによって、なぜいま死ぬの?!  手前勝手ないい分だが、「許さない」と思った。「殺してやる」と思った。もう死んでるのに。 だって私、貴女がもってるもの、なにひとつとしてもってない。そんな私が、せこせこ生きるために入院の準備をしなくてはいけないのに、なんで貴女は死ぬの?! 旦那に送ったメールは、「死にたい」だった。 それに返事が返ってきた。「いま仕事中です」
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