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サイドA
あの年はちょうど感染症が世界的に拡大し始めた年で。
みんなおびえていた。過剰に自己防衛していた。
思えばそんな年に、抗がん剤治療をやったのだ。四月から始めて六か月。九月の中頃まで。例のウィルスに感染すれば、命の危険もあるという抗がん剤を。
がんはステージⅢまできていたし、待ったなしだったといえば、それはそうだけど。
あの頃の私の楽しみといえば、化学療法室のソファに寝そべって、点滴しながらスマホでゲームをすることだった。
なんせ点滴は二時間以上かかるから、単純なブロックゲームで結構な高得点を叩き出したな。
抗がん剤は二種類あって、初めのは三週間に一度、後半になると毎週。
毎週のやつは、副作用はそんなにないんだけど、点滴の時間が長くて、アルコール入ってるからぼーっとするし、なにより通うことが苦痛になってた。
よくやってたなって思う。かつら被って、メイクして。
最近は安くて可愛いかつらがたくさんあって、ネットのウィッグのレビューを見ていると癒された。
「抗がん剤をやっているので購入しました。長さは胸にかかるくらいでした。カールもとっても可愛くて気に入ってます。洗濯用にもうひとつ買おうかと思うくらい。ありがとう、レイラボラトリーさん! まゆまゆ・27歳」
まゆまゆさん、こっちがありがとうだよ。同じ時期にがんばっているんだね。私は生きることにそこまで執着ないけどさ。がんばってるんだもん。生き残ろうよ。
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