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「僕は運がいいな。キレイなハコを2度も見れた」
樹がハンカチを差し出してきた。
「本当、樹だけだよ。2度も見てるのは…」
「入江…時枝は?もうハコのこの姿、見た?」
「まだ。試着の時だけ」
「じゃあ、このままハコをさらっていい?僕だけのものにしたい」
「だめ。私は翔と結婚するの」
「じゃあ、なんで僕を探したの?」
「……なんでだろう」
須藤くんに会ったから不安になった?
樹を信じているって言ったけど、今日が過ぎるのが怖い?
絶対に『逆再生』しないでってお願いするため?
「…違う」
「何が違う?ハコ?」
違う。
今日という日が過ぎた時、私は樹に会いに来て欲しかったのかもしれない。
タイムリープに頼らず、小細工もせず、本当の樹として。
だけど会いに来られたら、ちゃんと拒絶出来るのか自信なかったかも。
だからこそ、こんな2月という寒い時期だというのに、今日という日を結婚式にしたのかもしれない。
人生で一番幸せな時間で、今日を上書きするために。
翔の事は、間違いなく愛している。
愛の言葉は少ないし、キスもそんなに上手じゃないけど、翔がいい。
翔は決して私を甘やかさない。
長く未亜ちゃんのお父さん代わりをしていた事もあるだろうけど、生活面においては厳しい。節約家で、無駄遣いどころかちょっとした贅沢も滅多に許してくれない。
だけど優しい。
私の考え方もちゃんと聞いてくれて、理解しようとしてくれる。
私も、翔の考え方を尊重したいって思える。
私が苦手とする料理も掃除も、ちゃんと教えてくれる。
お互いに負担にならないように、お互いが思いやる。
何より私が触れたい、翔とずっと一緒にいたいって思う。
なのになんで今、こんなに樹に会いたかったのだろう。
樹の記憶を持ったまま結婚することに対しての不安?
確かに時々、翔をつい樹と比べてしまう。
散々私を甘やかした樹と。
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