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樹は考え込む私と同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。
「僕さ、3月からシンガポールの支社に行くことが決まっているんだ。日本に帰ってくる事は…もう無いかもしれない。だから、もう本当に会えなくなると思って、最後に一目、ハコの姿を見たかったんだ」
「…そう、おめでとう」
「こんな風に会うつもりは無かったけど、会えて良かった」
「うん。そうだね」
「僕との記憶は、時枝との記憶で上書きしていってね」
「うん。そうする」
「例え時枝がハコを傷つけても、もう僕は飛んでこれないかね」
「うん。わかっている」
「愛しているよ、ハコ」
「うん、私もだよ」
「…じゃあ、行くね」
「うん、じゃあね」
樹は裏門から式場を後にした。
私はそのまま放心状態で座り込んでいると、従業員さんが見つけてくれた。
私はイチから身支度し直しで、式は大幅に遅れて開始された。
後程、母にこっぴどく叱られた。
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