新学期

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「タオル、返してくれるのはいつでもいいから」  私がリュックの中や私物を拭いている間、林くんは文庫本の水分を丁寧に拭き取ってくれた。  今日持ってきていた文庫本は、普通の推理小説で良かった…。  一番水分を吸っていたポケットティッシュは捨て、ハンカチは水洗いをして、ついでに私物の水拭きに使ったあと、乾かしている。 「さっきの鍵、持ち主見つかりました?」ミジェルが迷子なんて、可哀想すぎる。 「うん、大丈夫。見つかったよ。ありがとうって伝えてくれって」  そうか、よかった。 「林くんもありがとう」 「いえいえ」 「林くん、部活大丈夫?」  いつの間にか教室には私達2人だけになっていた。  窓の外からかすかに、トランペットか何かの音が聞こえる。 「うん。今日は前半自主練だから」  林くんは時計を見ながら、少し慌て始めた。 「じゃ、また明日」 「うん、ありがとう。部活頑張ってね」  やだなぁ、私ったら。  ちょっと(?)優しくされただけで、今、林くんをすごく特別視してる。  男子とまともに喋ったことなんて小学生の時以来だ、多分。 「林…樹くんか。木、多いな」  名は体を表す。まさにその通りかも。  一緒にいたら、なんか安心できる。そんな感じ。  じゃあ、私は? 『玉手 葉子(たまて ようこ)』。  普通に読んだら『たまてばこ』。  浦島太郎は「開けちゃダメ」と言われていた玉手箱を開けた。  この私のそそっかしさは名前のせいだ…と、今まで数十回自分の名前を恨んできた。小学校の頃は、皆私を『ハコ』と呼んだ。  そんな事を考えながら帰りのバス停に向かうと、ちょうどバスが来たところだった。
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