91人が本棚に入れています
本棚に追加
「タオル、返してくれるのはいつでもいいから」
私がリュックの中や私物を拭いている間、林くんは文庫本の水分を丁寧に拭き取ってくれた。
今日持ってきていた文庫本は、普通の推理小説で良かった…。
一番水分を吸っていたポケットティッシュは捨て、ハンカチは水洗いをして、ついでに私物の水拭きに使ったあと、乾かしている。
「さっきの鍵、持ち主見つかりました?」ミジェルが迷子なんて、可哀想すぎる。
「うん、大丈夫。見つかったよ。ありがとうって伝えてくれって」
そうか、よかった。
「林くんもありがとう」
「いえいえ」
「林くん、部活大丈夫?」
いつの間にか教室には私達2人だけになっていた。
窓の外からかすかに、トランペットか何かの音が聞こえる。
「うん。今日は前半自主練だから」
林くんは時計を見ながら、少し慌て始めた。
「じゃ、また明日」
「うん、ありがとう。部活頑張ってね」
やだなぁ、私ったら。
ちょっと(?)優しくされただけで、今、林くんをすごく特別視してる。
男子とまともに喋ったことなんて小学生の時以来だ、多分。
「林…樹くんか。木、多いな」
名は体を表す。まさにその通りかも。
一緒にいたら、なんか安心できる。そんな感じ。
じゃあ、私は?
『玉手 葉子(たまて ようこ)』。
普通に読んだら『たまてばこ』。
浦島太郎は「開けちゃダメ」と言われていた玉手箱を開けた。
この私のそそっかしさは名前のせいだ…と、今まで数十回自分の名前を恨んできた。小学校の頃は、皆私を『ハコ』と呼んだ。
そんな事を考えながら帰りのバス停に向かうと、ちょうどバスが来たところだった。
最初のコメントを投稿しよう!