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「見せて」林くんが私の真横に座り、手を出してきた。
近い!
私は思わず距離を取ろうと横ずさりを…あ、
「危ない!」
林くんはベンチの端から落ちそうになった私の腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。私の膝の上のお弁当箱は宙を舞った。
そして一瞬、私は林くんの胸の中に飛び込んでしまった。
「何してんの…。あーあ、弁当ぶっちゃかしたよ」
林くんは空になってしまったお弁当箱を私に預け、ポケットからビニール袋を取り出し、手際よく散乱したお弁当の中身を集めてくれた。
放心状態に陥ってしまった私は、その作業を黙って見つめていてしまった。
「ご、ごめん!片付けて貰っちゃって…!」
「いや、驚かせちゃったの僕だし。こっちこそごめん」
そう言って林くんは持っていた袋からあんぱんとクリームパンを出してきた。
「お詫びにどっちかあげる。放課後追試でしょ。腹減ってたら頭回んないよ」
回す頭もございませんが…。
「じゃあ…あんぱんを。あ、お金!お金払います!」
「いいって、いいって。さ、食べよう」
林くんは私の膝にあんぱんを乗せ、自分は袋から今度はメロンパンを出してきた。
「コレは僕の。高校の近くの藤川駅前の『ゆゆら』ってパン屋、知ってる?平日の朝だけ営業しているの。そこのパンなんだけど、このメロンパンが絶品なんだよ」
私の家は藤川駅と反対方向なので、時々駅を利用しても店の存在は知らなかった。
「…美味しい」しかも私が好きなこしあん。しっとりとして、上品な甘さ。
「これ、すごく理想的。求めていたあんぱんだ…」思わず目が潤んできた。
「そう?良かった。また今度買ってこようか?」
「ぜひ!あ、でもお金はちゃんと払います!」
林くんは優しい眼差しでメロンパンにかぶりついた。
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