過去の思い出 ~キミとの偶然の出会い~

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過去の思い出 ~キミとの偶然の出会い~

(星夜side. )  木々が生い茂り青々しい匂いがする季節。  雨が続き、あちらこちらに水たまりが出来ている。  今日は何日かぶりの雲ひとつない晴天。  久しぶりの天気というのもあり、僕はタブレット端末を持って森が広がる公園の中を散歩しに出掛けた。  森といっても公園の一部で、高い木々の中に遊具や小さな動物園、散歩コースなどある場所。  歩いているとあたたかい光と冷たい影が交互に現れる。  僕は遊歩道から外れた場所で木々と大きな岩の景色を捉え、歌いながら絵を描いていた。  歌いながら次の描く場所を探していると水のような透明感のある歌声が聴こえてきたんだ。  振り向いてみると……木漏れ日が差す光の中にキミがいた。  偶然なのか運命なのか、キミは僕と色違いの同じタブレットを持って景色を切り取り、別の世界を創り出していたんだ。  あの場所でキミと目が合った瞬間、チャンスは今しかない!  そう思ったんだ。  突然、強い追い風が吹いて。  その風に背中を押されるような感覚がしたと思ったらいつの間にか走ってキミの前に立っていた。   「こんにちは!」と僕はいつもより高めのトーンで元気いっぱいに話しかけると  キミは「雪の妖精さん? 雪のような綺麗な髪色、空みたいな瞳。アナタは雪の妖精さん?」と言ってきた。  目の前でみたキミの瞳と髪色は何でも受け入れる、何でも吸い込んでしまいそうな真っ黒な色をしていた。  キミはその容姿から魔女の子という意味で「マジョ子」というあだ名が付けられていた。  しかし見た目やあだ名とは違い、キミは朝陽という名の通り、朝一の太陽。  朝の日差しのような眩しい笑顔をみせてくれる。 「ふふ。キミには僕が妖精にみえるの? ちっちゃいから? 真っ白だから? それともキュートだから?」  と僕より背が高いキミに上目遣いでじーっと見つめてみる。 「え! あー全部! なんか尊い感じがする!」とキミは僕を見つめ返してくる。    自分でやっておきながらなんだか少し恥ずかしい。  せっかくキミが僕だけに視線を向けてくれているのに、直視できないよ。 「なにそれ! 面白い! でも残念! 僕はふつーの男の子だよ!」 「ですよね! なんか変なことを言ってごめんなさい!」 「気にしないで! そんなこと言われたのはじめてだよ! だから嬉しいよ! ありがとう!」 「あれ? そういえば、前にもどこかで会いましたよね?」 「うん、別の公園ですれ違ったことがあるよ」 「やっぱり! その時もそのタブレットを持っていたような?」 「うん! 僕ね、絵を描くのが好きなんだ! これに絵を描いているんだよ」 「そうなんですね! 私も絵を描くのが好きです! といっても私の場合、写真を加工してそれに描き加えているだけなんですけどね」 「はい! 敬語禁止! 僕ね、何度も偶然に会う、キミと友達になりたいんだ! だから敬語はなしにしてほしい」 「あ、はい。じゃない、うん。わかった。実は私もアナタとよく会うからなんとなく話しかけようと思っていたの」 「ホント? じゃあ今から友達ってことで」 「うん! よろしくね」 「よろしく! あ、自己紹介を忘れてた! 僕は宇月星夜(うづきせいや)。桃源西中学一年」 「私は天彩朝陽(あまさあさひ)。私も桃源西中学一年!」 「あれ? 同じ学校で同じ学年?」 「じゃあ、学校でもすれ違っていそうだね」 「だね。ねぇ、なんか偶然よく会うのに正反対の名前だね、夜と朝! なんか面白い!」 「正反対の名前だけど逆に近い感じもする。好きと嫌いは紙一重みたいな感じで」 「確かに! じゃあ僕たち紙一重的な名前だね」 「そう思うと、なんか偶然よくすれ違っていたことも納得できる気がする」  そういって僕らは顔を見合わせて笑いあう。      やっとキミと話すことが出来た。  やっとキミと同じ時間を過ごすことが出来た。  やっとキミと同じ景色がみれる場所に来れた。  すげえ、嬉しい! 幸せだ! 「で、で! 朝陽はどんな絵を描いているの? 見せてよ!」 「いいよ。星夜くんのも見せてくれる?」 「もちろん!」  そう言って僕たちはお互いの絵を見せ合った。  同じ場所を描いているのに色の使い方、筆のタッチで別の世界が出来上がる。  同じモノをみているのにこんなにも捉え方が違うんだということに感動を覚えた。  僕らははじめて会話をしたはずなのに、昔からの友人のように話が盛り上がり意気投合した。  その時、小学生の時に叶えられなかった願いが叶ったような気がした。  ずっと会いたかったよ、話したかったよ、朝陽。
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