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 先生達が東京にいる頃。  僕は画材屋でバイトしていた。七歩さんが東京に行っている数日間、短期のピンチヒッターという形だ。  このバイトの話は空子さん経由でやってきた。どうして僕を?と思ったけど、画材屋の店長が、僕のことを気にかけてくれたらしい。先生の助手と空子さんの喫茶店を同時にを辞めてしまって、いきなりバイトゼロになってしまったところだったし、七歩さんのいない時に短期バイトに入るのなら問題ないだろう、と思って引き受けた。 「今日は来てくれてありがとう、涼くん。あれからどうしてるか気になってたの。大学にはちゃんと行ってる?」  店長が話しかけてきた。 「はい、大丈夫ですよ」 「そう。私もイケメンに振られたことあるけど、時間が解決してくれるわ。元気だしてね」  この店長も男の人が好きなんだよな。見た目普通のおじさんだけど。 「はい」 「私もだけど、七歩ちゃんも涼くんのこと気にしてたのよ。立場的には、近いものがあるもの」 「ふふっ」  僕はなんだか、おかしくなった。 「あら? 笑ってる? 七歩ちゃんの名前が出たら機嫌悪くなるかもと思ってたのに」 「いや、意外と『自分も同じ立場だから』とかいって気にかけてくれる人が多くて」  藍華さんからも、失恋の件の後連絡があった。藍華さんも僕と似たような立場だとか言って。 「僕、いつの間にかメイクするようになって、男相手に失恋して、ずいぶん奇異な人間になってしまったような気がしてたけど、そうでもないのかもしれないなって」 「あら、いいこと言うじゃない。そうね。人って案外わからないものよ。そもそも、自分のことすらよくわかってなかったりするもの。私も、オカマキャラになったの30歳過ぎてからよ。それまでは普通に女の人と付き合ったこともあったし」 「へえ……」 「涼くんも、まだ大学生だし、これから思わぬ方向に変わるかもしれないわ。七歩ちゃんだって、つい最近まで、恋愛がよくわからないとか言って、ぼんやりしてたもの。そりゃ、思春期になればほとんどの人が恋愛するけど、結構いい大人になっても、自分の恋愛傾向がわからずにいる人って結構いると思うの。だから、涼くんも自分がどんな人間なのかなんて、そんなはっきり定義しなくてもいいのよ」 「そうですね」  僕は素直にうなずいた。  ふと、壁に貼られた『大規模アウトサイダーアーティスト展東京2024』のポスターが目に入る。  先生達、もう東京に着いたかな。  アウトサイダーアート展か。「障害者とアートについて考える」なんてスローガンがポスターに書かれているが、先生と七歩さんは、多分なにも考えずに楽しんでいる気がする。そんな姿が容易に想像ついた。  そう考えると、なんだか二人はお似合いな気がした。  エピソード3 おわり
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