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「あら、七歩ちゃんじゃない」
小石川先生とのデートが終わって、帰る道の途中で話しかけられた。私の家まであと少しという場所だ。話しかけてきたのは千里ちゃんのママだった。
「こんにちは」
「七歩ちゃん、今日はお出かけだった?」
「あ、はいそんな感じです」
「もしかして、小石川先生と一緒?」
「ええっ」
なんでバレてるんだろう!?小石川先生も家まで送ってくれるって言ってくれたけど、先生目立つから二人で家の近所を歩くのは恥ずかしくて、前回も今回も現地解散にしてもらったのに。
「七歩ちゃん、こないだ、千里に動物園土産くれたじゃない? そのあと小石川先生がYouTubeで動物園に行ったって言ってたのよ。だからもしかしたらと思ってねえ」
「あはは……」
そんなところからバレるとは……千里ちゃんのママは鋭いなあ。
「ねえねえそれで、小石川先生とはもう付き合ってるの?」
「い、いえ。まだそこまでは」
「だけど、二人でお出かけしてるんでしょう?」
「そうですね……」
千里ちゃんのママはついこないだまで、千里ちゃんと小石川先生の結婚を目論んでいたはずだ。今どんな気持ちでいるだろう。笑いながら話しているが、真意が掴めなくて、ドキドキしてしまう。
「七歩ちゃんと小石川先生でも、お似合いだと思うのよねえ。なにより、うちにとってもいい話だもの」
「え?」
「七歩ちゃんと小石川先生が結婚するなら、七歩ちゃんが千里から離れていくことはないでしょ。先生も千里のファンだしお友達だもの」
「あ、たしかに……」
そうか、小石川先生と私が付き合ったりするのは、千里ちゃん親子にとってはむしろ好都合なのね。私はちょっとほっとした。
「上手くいくといいわね、七歩ちゃん。実を言うと、千里に構ってばかりで婚期逃さないか心配だったの! よかったわねえ!」
「そんな、気が早いですって! すぐ結婚の話に持って行かないでくださいよ!」
「またまたあ。七歩ちゃん、動物園の帰りの日も今日もいつもよりおしゃれでかわいいわ。絶対まんざらじゃないでしょ!」
「え? そうですか!?」
自分でも顔が赤くなっているのがわかった。
「じゃあ、頑張ってね、応援してるわ。千里も見合いかなにかさせないとねえ。小石川先生とはお話できるんだから、男の人がだめってわけじゃないのはわかったもの。頑張って探せばなんとかなると思うのよ」
千里ちゃんのママはそこまで言うと、自分の家に向かって歩き出した。
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