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「もう先生に会いたくないの。喫茶店のバイトも辞めるから」
「どうして!? どうしてー!? 私、何かしましたか!?」
「だって……」
また涙が出てきた。
「だって、先生が好きなんだもん。だけど先生が好きなのは七歩さんなんだもん。失恋したから、やりきれなくてお酒飲んだんだもの。好きでいてもどうにもならないなら、もう離れたい」
「涼くん……」
先生は驚いたのかしばらく黙っていた。僕も黙っていた。しばらくして、話を始めたのは先生だった。
「そう……家庭教師で女の子を担当すると度々こういうことがありましたが、男の子でもあるものなのですね。涼くんとこんな形でお別れになるなんて、想像もしていなかった」
先生の目にも涙が滲んでいた。
「先生……」
先生はポケットからハンカチを取り出した。僕が今日あげたやつ。これで先生が涙を拭くのは今日二回目だ。クリスマスイブなのに、可哀想な先生。
「ねえ、先生。ハグしてくれない? これで最初で最後。ね、いいでしょ」
「ええ、構いません」
先生は僕を抱き寄せた。
「さよなら……先生」
先生がもし恋に興味なかったら、恋人を作らない人なら、いつまでも助手として側にいただろう。僕は自分の気持ちに気がつかずにいられただろう。
悲しいけど、お別れだった。
さよなら、小石川先生。
そして、ありがとう。
無気力な僕に、喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも、すべて教えてくれて、ありがとう。
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