3人が本棚に入れています
本棚に追加
庄野は、自分のファンだと思っていた万田春香が敵に回ったのが特に気にいらなかったのか、彼女をひとにらみして去っていった。
「あの子、可哀そう。真司くん、またきついこと言うから、泣きそうだよ」
亜妃さんの言うとおり、彼女は涙を我慢しているような顔だった。そして、こちらを見もせずに教室の方へとぼとぼと歩きだした。
おれは、亜妃さんを置き去りにして、万田春香を追いかけた。
やっと気づいた。彼女は庄野のためにおれを利用したのだ。庄野の噂話を打ち消すために、おれをわざと怒らせた。今日に限ってなかなか怒りださないおれに、わざわざ「思い出」なんて持ち出して。
おれは彼女の腕をつかんで振り向かせた。
「おれを甘くみるなよ」
「うん、ごめん」
そう言って目に涙をためたままヘラヘラと笑う彼女に、おれはそれ以上何も言えず、ただ見つめているしかできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!