3人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女はメガネを手で押さえながら、ぶるぶると首を横に振って、後ずさりしていた。ぶつけたのは自分ではないと言いたいのか。でも状況からすると、いかにも万田春香が犯人だ。
「万田、またお前か!」
「あの、わたし……」
すでに彼女は泣きそうだった。
すると反対側から、こらえきれないといったような、軽薄そうな笑い声が聞こえてきた。
「万田さん、腕力なさそうだし、こっちまでは無理かなぁと思ってたんだけど。まさか、そこに届いちゃうとは」
そう言って、再び馬鹿みたいに笑い出したのは、隣りのクラスの庄野だった。
察するに、彼が、彼女にボールを投げてよこすように言い、腕力もコントロールもない彼女が、ちょうど中間地点にいたおれの頭に当ててしまったということらしい。
庄野は、成績はいまいちだが、明るくて優しくて見た目がいいので、いわゆる学校の人気者だ。うちの高校の男子バレー部のキャプテンでもある。おれとは正反対の性格で目立つことが大好きで、見ていてイラだつときもあるが、クラスは別だし、通常は自分と平行線上にいるので、許容範囲だ。
最初のコメントを投稿しよう!