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プロローグ
秋の湖畔の朝は清々しい空気に満たされていた。
湖面に踊るやわらかな光と、周囲の深い緑の森が綾なす美しい光景。そんな水彩画のような色彩豊かな景色を、天井まで続く大きな窓から堪能できるカフェ『水鳥』。
軽く開けられたテラスに続く扉から湖面を渡る心地よい風が店内に入り、窓からは穏やかな日差しがふりそそいでいる。
ところが、そんな周囲のさわやかな光景とは裏腹に、店内には重苦しい空気が漂っていた。
「まぁ、とにかく…」
名取紗矢は陰鬱な空気を振り払うように軽く咳払いをし、
「珈琲でも飲んで落ち着きなさいよ。いつものモーニングでいい?」
誰もいない朝の喫茶店のカウンターで頭を抱えている幼馴染の安岡康太に尋ねた。
「いや。食欲なんてまるっきりないから、珈琲だけでいいよ」
康太は重苦しいため息を吐いてかぶりを振った。
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