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「……渡瀬」
一瞬驚いた顔をしてから、にっと笑った。その笑顔は『やっぱり来たな』と確信に満ち溢れている。
「息切れてるな。慌てて来た?」
「ちがっ……います!」
にやにやした意地悪な表情を見たら、反発する言葉が口をついて出た。
「あそこに座ってるのが相手だよ」
指の先を見る。
ラウンジのエントランス側の席。綺麗な人。お嬢様というよりは自立しているバリキャリという印象。
想像で膨らませるのは得意だ。あの人が、これから公的に神楽さんの隣に……。
「私はラウンジに来ただけで……!」
「そっか? 上のスカイラウンジ眺めいいからゆっくりして行けよ。じゃあな」
すたすた歩いて行こうとしたスーツの裾をぎゅっと掴んで止めた。
「……」
すると逆に手首を掴まれた。
その状態で、ぐんぐんエレベーターゾーンに突き進んで行く。
「どこに……」
「部屋」
「えっ!? えっ、あの方は」
「今から他の女抱くから会えませんって言うの?」
「はっ!?」
抱くって!? っていうか部屋っ!?
「社長……っ!」
戸惑いながらラウンジの方に振り返る。
すると、神楽さんの相手の女性と目が合って……ぞくっとする。
「こっち見てませんか……!?」
距離が離れているので定かではないが……彼女は驚いたりしている様子ではなさそう。
まるでこの状況を分かっているかのような……。
「行くぞ」
問答無用で引っ張られて行く。
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