1.最悪の男

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オフィスに戻りづらく、仮眠室にひとりで籠っていた。 「佐代、どうなったんだろうね」 するとよく知った声が聞こえてきた。同期の美智香、香澄、真緒。お喋りをするためにここに来たらしき3人は、奥にいる私の存在に気づいていない。 「部長も呼び出されてたよね」 「話もう終わったのかなぁ」 仲のいいメンバーたちに卑怯な手を使ったと思われているのは耐えられない。誰も信じてなくてもせめて仲の良い3人にだけは。すぐに出て弁明しようとした。 でも――。 「ぶっちゃけ、佐代は枕とかしてると思った」 毒をたっぷり含んだ美智香の声に体が固まる。頭の中が真っ白になる。 「だってここ最近不敗とか絶対おかしいでしょ! デザインも言うほど良くなくない? 今回のB社のコンペも何あれ? なんであれが採用されるの? と思ってたらやっぱり部長とか〜って」 憎しみと嘲笑が混じった声。私が知っている美智香のそれではなかった。 「ん〜。でも私、B社の案は美智香の案の方が好きだったかも」 香澄が言う。 「でしょ!?」 私は震える自分自身を掻き抱きながら激しく混乱していた。 仲良しのメンバーで、入社した時から一緒に励まし合いながらやってきた。死人が出てもおかしくないような鬼のような日々を乗り越えられたのも同期の彼女らがいたからだと私は思っていた。 同僚という垣根を超えて友達だと。 私は。私だけ……?
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