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私は南青山のお洒落なカフェでとある人を待っていた。
時計をちらちら、そわそわして落ち着かない。スピーチやプレゼンは仕事柄慣れているはずなのに今日ばかりはかなり緊張している。
「渡瀬さん、お待たせしました」
その人が現れた瞬間、立ち上がり頭を下げた。
「本日は、どうぞよろしくお願いいたします……!」
「そんな硬くならないで。座って」
「失礼します!」
カフェに颯爽と現れた男性に、女の子たちの視線が集まる。
パーマなのか天然なのか、ゆるいウェーブの柔らかそうな髪。長い首、すらっとした体をセンスのいいセットアップで包んでいる。
なにより、顔がいい。垂れ目で、口角が上がって、涙袋がくっきりとした流行りの甘い顔。
なのだが、眺める余裕は今の私にはない。
これから面談が始まるのだ。
私は報宣堂を退職する決意をした。
怪文書について何か知っていそうな美智香を問い詰めてもシラを切られ証拠がないでしょの一点張り。香澄と真緒に聞いても私たちはそんな話はしていないで結局うやむや。
社内不倫してた人、と後ろ指をさされ何クソ! と反骨心が芽生えたが、それを上回ってあの会社にいるのが嫌になってしまった。
一言で言えば心が折れた。
辞めようかと悩み出したちょうどその時、この人に声をかけられた。
ウチで働かないか――と。
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