1.最悪の男

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「俺も代理店にいた頃、蹴落とし合いがすごくて、ある事ないこと噂されたしねぇ」 「そうだったんですね……」 こんな素晴らしいデザイナーでも、そんな低レベルな嫌がらせを受けなくちゃならないんだ……。 「結局大手では社内政治力が強い人が生き残れるんだ。でもそれっておかしな話だよね。デザイナーなのにデザイン以外のことで神経使わなきゃいけないなんて」 笑顔の裏にはどんな経験があったのか分からないが、きっと彼も私と同じような嫌な経験をしてきたのだろう。勝手に親近感。 「そういうのが嫌で、相方とこの会社を立ち上げたんだよ」 彼の考え方は素晴らしいしありがたいと思う。だがそれは橘さん自身の価値観で、他の人がどうなのかは分からない。心配や不安がないわけじゃないが、こればかりは腹を括らなければ仕方がないか。 「渡瀬さんはもしかして海外思考なのかな?」 「はい! いつか海外支社で働けたらいいなと考えています!」 「そっか。実は近いうちまた海外支社を増やす計画もあるんだ」 「そうなんですね……! ぜひ関わりたいです!」 アンロックを選んだもう一つの大きな理由がそれだ。 すでにロンドンやサイゴンに支社があり、海外の仕事が多数ある。 日本を出てデザインの最先端で働けるかもしれない。外に出てしまえば、あんな噂も関係ないし。 それが一番楽しみで、私がこの先目指したいところだ。
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