1.最悪の男

16/27
前へ
/365ページ
次へ
報宣堂を退職した私はアンロックでの初日を迎えた。 オフィスは表参道にある。建物の外観はコンクリートとガラスで無機質な雰囲気がいかにもおしゃれなデザイン事務所然としているが、意外にも内装は白と木を基調に観葉植物などが置かれ暖かい雰囲気になっていた。トップの趣味なのだろうか。 「お。おはよう!」 「橘さん!」 オフィスに出社してきた私を見つけた橘さんがにこやかに近寄ってきた。今日も爽やかでかっこいい。 「どうぞ、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」 「ちょっと、そんなつまんない挨拶やめてよ。はい、みんな注目」 メンバーたちに紹介される。人数は30人いるかいないかくらいだろうか、基本的にクリエイターの集まりなので服装もおしゃれで個性的。海外展開しているだけあって日本人以外にもスタッフが多くいる。 「前に一度エントリーしてくれたんだけど、その時は落としてしまって。彼女のここ最近の活躍を知ってる人もいるかな?」 「渡瀬さんといえば、あの案件ですよね。やられたって思いました」 「私も思いました。シンプルなのに斬新」 「そんな……ありがとうございます!」 どうなるかと思っていたけど、和やかな空気で安堵……。 「今日のランチは風見さん一緒に行ってあげてね。歓迎会の予約ってできてる?」 「はい!」 「渡瀬さん、イタリアン嫌いじゃないよね? 夜、楽しみにしてて」 「ありがとうございます!」 「英語イケるよね? グローバルチームと少し話そうか。色々聞けると思う」 「はいっ!」 橘さんが積極的にあれこれ働きかけてくれている。 私が不安を抱えていることを知っているから、早く打ち解けられるようにしてくれているんだ。 気遣いがさりげなくて素敵な人。
/365ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14307人が本棚に入れています
本棚に追加