1.最悪の男

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アートディレクターでもある先輩デザイナーの風見さんからネットワークやサーバーやメール等社内的な設定の説明を受けていたところ、再び橘さんがやって来た。 「ちょっとごめんね。神楽が帰ってきた」 「そうなんですね……!」 「今、会議室でリモート打ち合わせしてるみたいだから終わったら」 神楽社長がロンドンから帰って来たらしい。入社前には会わなかったので挨拶をしなくては。 「インタビュー動画、拝見しました」 トップである神楽総二郎(かぐら そうじろう)さんがどんな人物か、インタビュー動画があったので見た。 「経済誌のやつかな? どんな印象だった?」 「ええっと、クールな方だなって印象でした」 「口数は多くない。けど良いやつだよ」 「あとは……猫が好きそう? みたいな?」 「なにそれ? でも確かに総は猫好きだと思う。犬より猫、みたいな?」 端正すぎる顔立ちに、どこか醒めた瞳に細い鼻筋で、冷ややかな印象を与える人物。そんな印象だった。 「終わったみたい。行こう」 「はい!」 ふたりで会議室に向かう。 橘さんと二人三脚でやってきた人。実力派デザイン集団の名を欲しいままにしているが、こういった技術組織はえてして技術を追求するあまりビジネス戦略が弱い、いわゆるビジネスオンチになりがち。 その点アンロックは経営的な成功も納めており、ビジネスサイドに有能なハンドラーがいるのは間違いない。おそらくそれが神楽社長なのだろう。 ドアが開く。 「こちら元報宣堂のデザイナーの渡瀬佐代さんです」 「初めまして、今日からデザイナーとしてお世話になることになりました、渡瀬佐代と申します」 顔を上げる。 えっ?
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