1.最悪の男

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「嫌な思いをさせてしまって本っ当に申し訳ない!」 「大丈夫ですから、本当に……!」 「完っ全に俺の不手際!」 カフェの席に座ってからもう何度頭を下げられたか。 「神楽はロンドン支社開所でずっと忙しくて、渡瀬さんのことをしっかり話せてなかった俺が悪かったとは思うんだけど……」 正直こんなこと初めてでびっくりしてる……という顔。 クリエイターの採用に口を出されたのは今回が初めてだったそうだ。それは彼が神楽さんから強固な信頼を得ていたと同義である。だがその信頼をもってしてでも私の入社は拒否された……。 「あいつだって大手代理店出身なんだから体質も嫌っていうくらい知ってるし、似た体験してる社員もいるし、あんな噂信じるような人間じゃないんだけどなぁ」 「もちろんあの話は事実無根ですが……あのような噂、嫌悪されるのも無理ないと思います。不倫なんて、私も最低だと思いますから」 さらっと言うつもりが必要以上に声に力がこもってしまった。 不倫なんて、最低だ。 不倫は文化なんてタレントの発言もありまるで軽犯罪だが、本来命を奪うほどの殺傷能力を持っているのだ。 神楽さんのように嫌悪する気持ちは分からなくもない。 でも、私は冤罪だ。話を聞こうともしない頭ごなしのあの人にだんだん腹が立ってきていた。 その怒りは腹の中でエネルギーへと変わる。
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