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「すみません、オフィスに戻ってもいいですか!」
「えっ、ご飯食べないの!?」
「テイクアウトさせてください! アイデアが思い浮かんでしまって!」
アイデアが浮かんだ時というのは雲を掴むのと似ている。悠長にご飯を食べている場合ではなく、すぐに取り掛からなければ消えてなくなってしまう。
『忙しい人だなぁ』と橘さんは笑っていた。
ランチを切り上げ慌ててオフィスに戻って階段を登り始めると、後ろから誰かが来た気配があった。振り向いてみれば、どこかから帰って来たらしい神楽さんが。
ゲッ!
声に出てしまいそうで慌てて口をチャックする。
怖い顔を見たらせっかくいい感じに浮かんだアイデアが霧消してしまいそうだ。
「……お疲れ様です」
蛇蝎のごとく嫌われていても社長相手に無視するわけにもいかず、立ち止まって挨拶する。
が――無視。眉間に皺を寄せ無言で階段を登って来る。
感じ悪っ!
社員だと認めてないから挨拶する義理もないっていうの! 私のこの所在のなさ、どうしてくれる!
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