1.最悪の男

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コンペの準備期間が終わり発表の場になる。審査員はN市の担当者2名及び神楽さん、橘さん。4名の前で社員たちが順番に案を発表していく。私の番が回ってきて審査員に簡単に挨拶をする。 「N市のPRということで、今回はロゴ案と共にキャラクターを提案させてください」 「キャラクター?」 担当者の表情が曇った。もう片方の人はコテンと首をかしげた。ロゴ制作の案件でキャラクターの提案が出ればそうなるだろうとは思う。神楽さんは腕を組んだ無表情で、橘さんはかすかに口元を釣り上げて笑っている。 「効果的にキャンペーンを展開させるには、ロゴだけのインパクトでは不十分と考えました。そのためキャラクターを作成し、キャンペーンをよりキャッチーに見せるべきです」 最終的な目標は、インパクトのあるロゴを作ることではない。市の認知を上げること。そのために何が効果的か考えたらこの方法になった。 「はぁ、キャラクターですか……」 「確かにまだN市にはそういうのはないですが……」 「キャラクターを制作した際のコスト感も調べて参りました」 クライアントが意識していない潜在ニーズを引き出す――それが広告提案側の役割だと私は考えていた。 ただしそこに数字的な根拠がなければただの夢物語。 夢物語じゃ彼らの上司は説得しないのでコスト感も同時にお伝えする。 「グッズなども一通り作ってみました!」 「おお、可愛らしい! いいですね!」 ぬいぐるみ、ノート、クリアファイル、エコバック、シールなどなど……イメージさせるためにありとあらゆる限りの実物を制作した。 ちらっと神楽さんを見る。 ふふん、どうだ、可愛いだろう。愛くるしいだろう。 好感触で発表を終え、キャラクター込みで 私の案が採用されたとN市側から連絡がきたのは、それから2週間後のことだった。 社長である神楽さんから社内コンペ優勝の目録を受け取ったが、世界で一番感情のない『おめでとう』だった。
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