1.最悪の男

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「改めて社内コンペおめでとう!」 「えっ!?」 橘さんが手に持っていたものを見て驚く。 「ケーキ好きじゃない?」 「好きです! もちろん……!」 コンペ勝利のお祝いのケーキらしい。『渡瀬さんおめでとう』ってわざわざチョコレートのプレートまで書いてある。おめでとうと一言言うのがやっとだったアノヒトとは大違いだ。 「あぁいう提案ができるのが渡瀬さんの強さかな」 「私は他の仕事がなくN市の調査や準備に時間をかけられたので……!」 他のメンバーは複数案件を抱える中でのコンペ。一方私は神楽さんに他の仕事はするなと命令されたことでコンペにつきっきりになれる状態だった。 この仕事、ひらめきのみの世界だと思われがちだがそうでもない。クライアントについて徹底的に調べて、本当に必要なものが何か考えたりすることで正解の提案が見えてきたりする。 今回は時間が勝利を呼んだと言っていいだろう。 「謙遜しないでよ。俺が惚れた人なんだから」 「え、ええ?」 「ここにいるみんな、俺が惚れた才能なんだよ」 あ、あぁ。そういう意味ね。family的な……ね。 入社時の連携不足による不手際があったから特別気にかけてくれているのは分かっているけど。この甘い顔でそんなこと言われて動揺しない女性がこの世にいますか。 ちなみにこのあと社内コンペをした際はこんな風に勝者にお祝いしてると聞いて『変に勘違いしなくてよかった』となった。
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