1.最悪の男

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「B社の案件は、渡瀬の案が選ばれた」 私、渡瀬 佐代(わたせ さよ)は張り詰めた空気の中でその言葉を聞いた。 願っていた通りの結果に飛び上がりたい衝動に駆られたが、深呼吸をして『ありがとうございます!』とお辞儀をする。誰ともなしに起こった拍手に包まれた。 「いいアイデアだった。おめでとう!」 「ここ最近負け知らずじゃないか!」 「広告賞もいけるんじゃないのか」 次々と暖かい賛辞が届く。 専門学校卒業後、大手広告代理店の報宣堂に入社しデザイナーをやって今年で5年目。最初こそ激務や代理店の風習についていくのが精一杯だったが、ここ最近は社内コンペで勝利する機会が増えた。 「佐代ちゃん、A社に続き今回もコンペ勝利! もはや飛ぶ鳥落とす勢いだね!」 仲良し同期の美智香が笑顔で近づいてきた。 「ありがと!」 自分のアイデアがいろんな人の手によってひとつの作品になり、ふとしたところで目にする。寝る暇もないほど忙しいが、この仕事が本当に好き。 まだまだ上にいける。まだまだ新しい世界を見れる。 そして、憧れの人に近づける。 今度こそはって、信じていた。
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