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クリエイターにとって資料室は医務室のような場所だ。何十年分もの苦悩の果ての知恵がここに詰まっていて、行き詰まった時には先人たちのアイデアに救われる。
「渡瀬」
「わあっ!」
ぶつぶつ言いながら思考していたところいきなり松村部長から声をかけられ持っていた資料を落とした。紙が散らばってしまう。しゃがみこみ拾いながらさりげなく目線で周囲を見渡すが、誰もいない。
やばい。こんな時間じゃ誰もいない?
「大丈夫か?」
部長の手が重なった。湿った感触に手にぞわっとする。また別の紙を拾うとまた重なり、思わず睨むような視線を向けてしまう。
わざとだ。
この男は私がひとりになる時を狙って触ってくる。奥さんもお子さんもいるのに、部長という役職なのに。こちらが立場上強く出られないのをいいことにセクハラしてくる。
「よかったじゃないか。お前の案が選ばれると思ってたよ」
「……ありがとうございます!」
まるで自分が口添えしたから勝ったみたいな言い方、やめてほしい。
「これからも応援してるからな」
部長はそう言って頭を撫でてきた。そこまでは引き攣りながらも耐えていたが、いきなり抱きしめられた。
「!? ちょ、……!」
「渡瀬、可愛いよな。彼氏いないのもったいないな」
「やめてください……っ」
汗やタバコの臭いが混ざった体臭。
気持ち悪くて拒否反応全開になり思い切り突き飛ばした。
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