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 初めて作った日のことを思い出す。大学生になってから少し疎遠になっていたアヤちゃんから夜中に突然電話がかかってきた。少し掠れた声で「なあブンカ、俺のこと慰めて」なんて言ってくるからすごくどきどきした。都合のいい女みたいになっちゃうかもなんて思いながらも、もしものときのために急いでシャワーを浴びたり、念入りに歯磨きしたりしてアヤちゃんが家に来るのを待った。  部屋に入るなりアヤちゃんは「腹減った。オムライス食べたい」などと宣った。突然言われたから家にあるものでなんとか作って出してあげた。それがツナのケチャップライスだ。ケチャップは少なめで、醤油を少し垂らして炒めるのがポイントだ。アヤちゃんはチューハイを買ってきていて、一緒に飲んだ。お酒が飲める歳になってから会ったのはこのときが初めてだったと思う。  アヤちゃんが家にいるという極度の緊張からか、酔いが回ったのだと思う。アヤちゃんが恋人にフラれた話をするから、寂しいなんて言うから、「じゃあわたしたち、付き合っちゃおうよ」と言ってしまったのだ。アヤちゃんは苦笑いしながら「何言ってんの。ブンカ、酒弱すぎ」って言ってわたしからチューハイを取り上げた。ずるずると昔の記憶を辿っていたら、苦い思い出まで引っ張り出してしまって胸がきゅうと苦しくなった。あの日からお酒は飲まないことにしている。
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