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チャイムが二回鳴らされ、ノックが三回あった。これはアヤちゃんが来るときの合図だ。わたしは鏡の前で前髪を整えてからドアをあけた。
「よう、ブンカ。久しぶり」
「アヤちゃん。どうぞ、入って」
「おじゃましまーす」
「なんか……ちっとも落ち込んでるようには見えないんだけど」
アヤちゃんはいつもそうだ。慰めてなんて言うわりに、泣くわけでもやさぐれるわけでもない。悲しそうだったのは最初に来た日くらいだ。たいていただ楽しくごはんを食べて、映画見たり、ゲームしたりして、疲れたらそのまま眠る。幸か不幸か一線を越えたことは一度もない。
「そんなことないって。今日は飲む」
「わたしは飲まない」
「わかってるよ。ブンカにはこれ」
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