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「ブンカ、今日行ってもいい?」
ポケットに入れていたスマートフォンが小刻みに震え、アヤちゃんからのメッセージを受信した。アヤちゃんはわたしの好きなひと。アヤちゃんなんて言っているけれど、別にかわいらしい女の子ではない。ガタイのいいスポーツマンだ。綾汰が本当の名前で、綾の字をアヤと読んでいるだけ。むしろアヤちゃんはわたしのほうなんだけど、一度もそう呼んでくれたことはない。文佳をブンカと一ミリも疑わずに読んだ彼は、訂正してからもわたしのことをずっとブンカと呼び続けている。だから仕返しにこちらもアヤちゃんと呼んでいるんだ。
もうずっと友達だから、今さら恋人になんてなれそうにない。一度酔っ払った勢いで「わたしたち、付き合っちゃおうよ」なんて言ってみたことがあったけれど、そのときは笑ってバッサリ切り捨てられた。だからもう言わない。彼にとって一番仲の良い女友達というポジションに甘んじることにしたのだ。
「いいよ。またフラれたの?」
「うん。ブンカ、慰めて」
「わかった。オムライス作って待ってる」
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