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エイプリル・フールとネタバラシのない嘘
昔から約束は嫌いだった。
守れる自信も、破る気力もなかったから。
その辺の風景が暗くなって、なぜか空っぽに感じる冬の寒い日。
雪になりきってない雨のような、雪のような何かが僕の上を通る12月。
ポインセチアがどの花屋さんにも置かれるようになった今日この頃。
僕は塾に通っていた。
寒かったこの日は塾の中は暖房がついていて、暖かかった。
暖房を常につけているはずの自習室は、凍りつく様に気まずい。
この時期特有の空気の冷たさを感じる。
12月。それは受験シーズン。
この年初めての受験を受ける僕は、この空気に押し潰されそうになってた。
いつも通り席に着き、自分が持ってきたテキストをやる予定だ。
ただ、運が良かったのか、悪かったのか。
僕は彼女の隣になった。
「ねぇねぇ、君。
数学のワーク持ってないかい?
忘れてきてしまったんだ」
そんな風に話しかけてきた彼女に、僕は少しだけびっくりする。
フレンドリーすぎる彼女。
彼女は誰に対してもこんな感じらしく、嫌われている。
それを知っていた僕は、どうしたらいいのか分からなかった。
でも、貸さないのは僕の良心が痛むからワークは貸す。
彼女は笑顔で言う。
「ありがとう」
その笑顔は、この季節に似合わない夏のようなキラキラとした笑顔だ。
その日はなんとなく授業を受けて、自習室で自習をして帰った。
数学のワークはきちんと返ってきて、驚く。
ワークには付箋があって、「貸してくれてありがとう」という言葉と共に
僕が解けずにいた問題の解説が載っていた。
僕は解けない問題に丸をつける習性がある。
彼女はそれに気付いたのだ。
普通は課題か何かだと思って気にしない。
きっと彼女は周りをよく見過ぎてしまう人なんだ。
そう感じた。
その問題は意外と簡単なものだったようだ。
その日からというもの彼女は
「〇〇貸してー」、「〇〇しよー」と誘ってきた。
僕には友達がいなかったから心の底から嬉しい。
彼女と勉強もした。
うちの町は隣町との境に図書館を作っている。
2つの町で使うためだ。
たまたま、彼女と隣町同士だったから、塾がない日も一緒に勉強した。
彼女は頭がいい。
彼女にどこを受験するのかと聞くと、僕が受けようか悩んでいるところを受ける予定だと言っていた。
僕は彼女と一緒の学校に行きたくて、同じ学校を志望校にした。
翌日、彼女は嬉しそうに言った。
「君も一緒の志望校にしたのか
これからも君といられるのならよかった
一緒に頑張ろう」
それから僕はとても勉強をした。
毎日毎日勉強して、彼女と同じ学校に受かれるように必死に。
それを彼女は手伝ってくれて、二人で頑張る。
何度も言うが、彼女は頭がいい。
僕の分からない問題が全て分かる。正直言って、すごいと思う。
ここまで出来る子はうちの塾には一人としていなかった。
そんな彼女はいつまで経っても一匹狼だ。
もっと周りが彼女の魅力に気づけばいいと思う反面、知られたくない自分だけの秘密にしたかった。
それから順調に時間は進んでいって、僕は合格した。
彼女と一緒の学校に。
幸せだった。まだ彼女といられる。
それだけが僕の喜びだった。
その日は二人でケーキを食べる。
そのケーキは、今まで食べた中で一番美味しかったと思う。
それから、彼女と出会った寒い日々は過ぎ。暖かい季節がやってきた。
白色の天使が舞い降りてくる季節。
そう彼女は言っていた。きっと、桜のことだろう。
4月1日、エイプリル・フール。
彼女は僕に嘘を吐いた。
「学校落ちたんだよね…実は。ずっと言えなかったんだけど」
それを聞いた僕は、固まった。
は?僕が受かったのに、彼女が落ちるか?
気まずい空気、固まる僕。
その場は彼女の笑い声で、空気が和んだ。
「マジにするなよ…今日はエイプリル・フールだろ」
そう言う彼女は清々しいほどの笑顔だった。
そんな彼女の悪戯心に弄ばれた僕は、「はあ」とため息を吐く。
その日は嘘か本当かわからない話を、聞かされた。
午後からは安定のネタバラシ
「はははっおもしろ」
って男の僕よりもかっこよく笑う、彼女がとても好きだった。
彼女には笑顔が似合う。
高校の入学式、彼女に告白した。
そしたら彼女は泣きながら言う。
「嘘じゃないよな?今日はエイプリル・フールじゃないぞ?
後悔しても知らないからな?幸せにしないと泣かすからな」
そう冗談まじりに言う。当然そのつもりだ。
だって、「この世の中で一番幸せだった。」
そう死ぬ前に、言ってほしいから。
その後涙目の彼女と教室に入ったら、大きな拍手が起きた。
「入学早々みんなに知られてしまったね」そう言い合い、二人で笑った。
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