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夏青同盟2
うちの学校の図書館はとてもカッコいい。天井が高くて窓が大きい。アーチ形の白くて太い梁もいい。ちょうど聖堂みたいだ。光が差し込んで埃がキラキラする中、私は図書の整理をして歩く。最近、借りる人が少ないせいか返却の仕事がほとんどなくがっかり。若者の読書離れだよ。私はいろいろ読む。読みやすい星新一から難し気な三島由紀夫とかまで。結構、硬派であると勝手に自負している。棚を几帳面に拭いている八重洲さん。
「あのさ。私……図書委員辞めるの」
「え、なんで。八重洲さんいなくなったら私退屈だよ。独りになっちゃうじゃん」
そう私のクラスの図書委員は八重洲さんしかいない。他のクラス、学年の女の子はあまりこない。熱心ではないし、あとはオタクっぽい男子だけ。漫画絵の表紙の内容もしょうもないであろう小説を読んでいる。
「ごめん」
八重洲さんは真正面から私を見つめる。なんて真摯で澄んだ眼鏡越しの瞳で私を見つめるんだろう。
「私、背水の陣を敷こうと思うの」
漢文でやった退路を断つ話である。
「私、生徒会長に立候補する」
「え、そうなんだ」
意外だった八重洲さんは真面目な優等生ではある。クラスの華でもある。しかし、生徒会活動的なものには興味がないかと思っていた。生徒会に集まる人は大抵内申点目当てです。推薦で受かろうとしているある意味努力家である。
「ど、どうして」
「権力が欲しいから」
「ええ……」
そ、そうなんすか……
「ま、やりたいことがあるのよ。校則変えたい」
「ああ、なるほど」
これならわかる気がする。権力、とか言うから少し驚いてしまった。
「出来たらでいいんだけど、手伝ってくれない?」
「いいよ。部活と委員の無い時ね」
「ありがとう」
うう、凄い、いい笑顔だ。なんだか反則気味。私はなんだか気恥ずかしくなって本を適当に書架から取り出した。君主論、ニコロ・マキャベリ著とあった。これは読んだことないなあ。
廊下に、誰もいなくなることがある。なぜか、がらんとしてしまう。たまたまトイレから帰った私の目の前にセーターと話していたあの柄の悪そうな男子、嘉藤がいた。そういえばクラスの子がカッコいいとか言っていたけど、私はどうでしょうねえ、と思う。なんかザ・男って感じで。
「あのさ」
「あ」
「セーター、いや一瀬君を脅しているんじゃないでしょうね」
「脅してねーよ。なんだよ、変な女だな」
ぐっと拳を固める。
「なんかやったらただじゃおかないから」
捨て台詞を残して立ち去る。これでも空手やっていたんだ。舐めるなよ。
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