夏青同盟4

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夏青同盟4

   次の日。八重洲さんの生徒会選挙本部の立ち上げをやった。だいたい10人くらい。他のクラスの子たちもいた。どういうわけかセーターもいた。集まったのは第二図書室と言われる書庫だった。埃っぽい空気が満ちていた。電灯はオレンジがかっていて、ちょっと暗い。映画とかで見る深刻な会議のシーンにピッタリ。 「なんか今日、暗くない?」 「あ、電気は節約ということになっているのよ」  八重洲さんは明るく言った。そういえば最近、校内が暗い。今年の春から校長が代わってからだ。やれ、エコバックだとか購買のパン屋さんがビニール袋をくれなくなったとか、いろいろメンドクサイ。環境問題とかいろいろやっているあのエスジーなんとかだ。でも、いいこともあって、男子とか先生の冗談に「それ、セクハラ」とか言い返してやることもできるようになった。男女平等。  そういえば、なんだかおっかなそうなあの、なぜか、あのがついちゃうんだけど、嘉藤十郎が八重洲さんの側にいる。ボディガードか彼氏なのか。まさか付き合っているのかなあ。 「お集まりいただいた皆さん、わざわざご足労をおかけしました。本当にありがとう。こんなにも多くの同志に恵まれ、本当に私は幸せものです」  張りのある声で堂々と話す。 「皆さんにはそれぞれ、校則を変えたいという意志があります」  なるほど、校則変えたい人たちが推すのね。  確かに景雲学院高等学校は生徒の自主性を重んじるとされている。校則も変えている。例えば『髪は地毛の黒でなければならない』という校則があった。しかしこれは文章からしておかしい……赤や茶色の地毛の子もいる。そんなわけでこの校則は先年度、廃止された。事情のある場合を除き、ファッションで染めてはならない、になった。真面目学校だから。 「その意志を集約化した皆さんの代理が私ということになります。それでよろしいですね」 「あのう……」  私は恐る恐る手をあげた。 「全校生徒のために生徒会があるんじゃないの?」 「ふ、甘いね」  は、鼻で笑いおった。八重洲さんは綺麗な唇の端を吊り上げる。 「みんな、それほど生徒会活動なんかに興味はないし、学校を変えたいとも思っていない。うちの学校は勉強に力をいれているし、志望の大学に入るのが目的の子が大半。興味がない。だったら変えたいと思う人が率先して変えればいい。変えたい自分たちのため、よりよくするためにね」 「あー、ごめん。そのあたりでいい? 変える校則としてはまず第一に女子スラックス」  急に話がかわる。いかにもスポーツ系と感じの女子だった。 「寒いんだよ、冬、スカート」  それはとりあえず賛成。他にも様々な校則を変えようという意見が出てきた。靴下の色の自由化、部活の顧問を外部から招くこと、アルバイトの解禁。 「そして、何より全員が望んでいることである……」  八重洲さんはニカッと笑った。 「恋愛の解禁です」
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