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夏青同盟7
ついに選挙演説会の日がきた。セーターの彼氏、嘉藤君が「八重洲月佳」と力強い筆で書いた幟旗が何本もはためいていた。どんなポスターより目立っていた。戦国時代を舞台にした大河ドラマに登場する小道具のようで、先生たちも「凄いじゃないか」と褒めていた。セーターは彼氏のつくった幟旗を誇らしげに眺めていた。やっぱり嬉しいんだろうね。自分の好きな人が力を発揮しているところをみるのはさ。
最初は井崎君。あくびが出るくらい実に真面目な演説だった。
次は八重洲さんだった。堂々と壇上にあがる。かるく長い髪を靡かせている。格好いい。
「『自主、自律、自尊』と『独立、独自、独歩』というのが我が校の校是であります」
「しかるに」
「我が校はいまだに古い校則に縛られています。学校のために私たちがいるわけではありません。私たちのために学校があるのです」
ちょうどスポットライトがあたり、微細な埃がキラキラと輝く。今日、この日のために彼女はここにいた。すっと背筋を伸ばした彼女の姿は美しかった。八重樫さんは一呼吸おいて宣言した。悪く言えばどこかの独裁者のように堂々としていた。立て板に水で火のような演説が続く。具体的な政策の提示が続く。
「私たちは……変わらないために変わり続ける必要があるのです。私は一票をお願いしません。変えたい人だけが私を支持してください。必ず公約を実現いたします。たったそれだけです」
拍手が沸き上がった。私は一際大きく拍手をした。よし、まずまずだ。
次は鞆浦さんだ。突然、アップテンポな疾走感のある曲が流れた。鞆浦さんが舞台上に滑るように現れた。ギターを弾きながら歌いだした。
「どうせで少子化で滅びるんだから放っておきましょう子供たちは」
「年金もらって安楽に死ぬことしか考えていない老人たち」
「老人たちをコンテナに積めて外国へどうぞ」
刺激的な歌詞だった。黄色い歓声が巻き起こる。うへっ、まるで芸能人んだよ。
「すべての権力を子供たちに」
「新しい旗を槍の穂先に掲げよう」
「変わらないために変わり続けよう」
うぉおおおっ、という歓声。もう滅茶苦茶だ。全然選挙演説会じゃない。
「中止!、中止」
選挙管理委員会と先生たちが飛んでくる。鞆浦さんは拳を突き上げると去っていった。
鞆浦さんは落選した。選挙演説などしないで新曲発表会ライヴにしてしまったから、失格だった。自爆作戦である。結果、八重洲さんはトップ当選した。めでたし、めでたし。とにかく、これで選挙活動は終わり。私はボールを蹴って図書室で好きな本を読む学校生活に戻る。
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