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放課後、約束通り図書室に顔を出した。
今日も人はほとんどいない。
わたしは本棚から一冊気になる文庫本を取り、昨日と同じ席に座り、五十嵐くんを待つことにした。
裏表紙を見ると、学生向けの恋愛小説みたいだ。ぱらりとページをめくる。主人公は引っ込み思案な女子高生。好きな人がいるけれど自ら動き出すことができず、待ってばかりだ。そのくせ好きな人に話しかけられると逃げてしまう。序盤からさっそくうじうじしていてもどかしかった。
でも、わたしもこんな感じなのかもしれない。
「優先輩」
「っ!」
五十嵐くんの声がして、咄嗟に小説を閉じる。小説に夢中になっていたせいか気配を感じなかった。
「お待たせしちゃってすみません」
「あ、ううん」
「何読んでたんですか?」
五十嵐くんは当然のようにわたしの右隣に座った。急な近い距離にはまだ慣れていなくて、鼓動が震える。
「……な、内緒!」
なんとなく言いたくなくて本を後ろ手に隠す。
「イジワルだ。そんなやましい本だったんですかー?」
五十嵐くんはにやりと笑い、わたしの背後に手を伸ばす。
「ちょっと、やだ!」
本を取られないように今度は五十嵐くんのいる反対側へと本をまわした。恋愛小説を読んでいたなんて恥ずかしくて知られたくない。
「そんなに隠すなんて怪しいですよっと!」
体格差では彼には叶わない。長い手が伸びてわたしの身体を横切り、左手に隠している本を掴みそうな勢いだ。
「やめてって……っ」
わたしは五十嵐くんを睨もうとした。けれどあまりの距離の近さに驚いて息を飲んだ。わたしが黙り込んだことに気付いたのか、五十嵐くんもわたしを見て固まる。
「あ」
息がふれそうなほどの距離で二人固まる。しばらくして、ギギギと音が立ちそうなほどぎこちなく五十嵐くんが離れていく。
「ご、ごめんなさい。調子に乗りました」
「……いえ……」
心臓がずっとバクバクとうるさい。
五十嵐くんもさすがに動揺しているのか、姿勢よくイスに座り、わたしから距離を保っている。結末が気になるけれど、小説はさっさと戻してしまおう。これを読んでいたせいで事故が起こったようなものだ。
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