3人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
「そ、それで、今日はなんの用事?」
気まずい空気に耐えられず、口をひらく。
昨日は校内新聞の記事チェックだった。今日も似たようなことを想像していたけれど、五十嵐くんは特になにも差し出してこない。
「は、はいそうでした。先輩、約束のもの持ってきてくれましたか?」
五十嵐くんはようやくいつもの調子に戻る。
「え? 用事はそれだけ?」
「はい」
さきほどの動揺はなかったように悪気なくにっこりと微笑む五十嵐くん。てっきり今日も何か頼まれると思っていたので拍子抜けだ。五十嵐くんが言っているのはきっと『お守り』のことだ。生真面目にちゃんと用意しているわたしはカバンのチャックを開けた。
「うん……これ」
カバンの中に用意していたものを取り出して、五十嵐くんに握りこぶしを差し出す。五十嵐くんが手のひらを上に向けるとわたしもこぶしをひらいた。ころん、と五十嵐くんの手のひらに転がる。
「……キャンディだ」
「うん。頻繁にあげられるのはこのくらいかなって思って。嫌いじゃない?」
「もちろん嫌いじゃないです。あと前も言いましたけど優先輩にもらえるものだったらなんだってうれしいです」
よくも恥ずかしげもなく言えるものだ。わたしのほうが、顔が熱くなってしまう。
用意したお守りは、コンビニやスーパーで見かけることのある、小さないろんな色のキャンディだ。昔のように毎日渡すことを想定して、どこでも買えるものがいいキャンディに決めた。
「ありがとうございます。大切に食べます」
キリっとした生徒会長とは思えないほどのふにゃりとした笑顔だ。小学生の頃の笑顔とは少し違ったけれど、笑ってくれるだけでうれしくなるのは変わらない。
「でも、もう帰るだけなのにお守り必要?」
こういうものは普通何か行動する前に用意しておくものな気がする。
「必要です! 俺はまだここに残って少しやることがあるので。その分ってことで」
「そっか、がんばってね。それじゃあわたしは……」
わたしの用事はこれだけだったみたいだ。生徒会長の邪魔になってもいけないので、さっき本棚から持ってきた本を隠しつつ立ち上がった。
「待ってください。俺からのお守り渡してません」
「私はいいよ。もらう理由がないもん」
「だめです」
強い口調に、わたしは座り直した。五十嵐くんは何かカバンからごそごそと探っている。何をもらえるのだろうと少し期待している自分がいた。
「あれ? どこだっけなあ」
なかなか見つけられないみたいで、五十嵐くんはカバンの底まで覗いている。
「あ」
「あった?」
カバンから顔を上げて優を見る。にっこりして、カバンを指差した。
最初のコメントを投稿しよう!