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「先輩先輩、これ見て」
「どれ?」
カバンの中に何かあるのかと、五十嵐くんが指を差しているカバンの中を覗き込むと――。
「っ……」
頬に、一瞬ふれたものがあった。柔らかく生暖かい感触。
「え、え、なに」
私は頬を手で押さえて、何があったのか理解できないでいた。ううん、なんとなくわかっていたけれどあまりの出来事に頭がまわらず言葉にできない。
「俺からのお守りのキスです」
「な、な……」
キス、というあからさまな言葉に、顔に火がついたように熱くなる。鼓動が激しく鳴り、苦しくなって胸に手を当てた。
「イヤでした?」
笑っているけれど、五十嵐くんも頬が少し赤い。
「イヤとか、そんな問題じゃ……だってカバンの中見てたのに」
「最初は嫌がるかなと思って、フェイクで」
「嘘つき……!」
騙された、ひどい、そう思うのに胸が震えてうまく言葉にできない。一瞬頬にふれた五十嵐くんのくちびるの柔らかさの感触まだ残っているみたいで身体を動かすこともぎこちなくなっていた。
「俺からのお守りはコレです。ちなみに拒否はできませんので」
呆気にとられ、口をぽかんと開く。
五十嵐くんの強い口調に言い返すこともできず、なんとか立ち上がり自分のカバンをぎゅっと抱きしめる。
「じゃ、じゃあね!」
「あ、先輩!」
逃げるように生徒会室から出た。ひとしきり走り、学校を出てようやく立ち止まる。息が苦しい。普段全力疾走で走ることなんてないからなかなか呼吸が整わない。五十嵐くんのくちびるがふれた頬を手でさわる。
びっくりした。すごくびっくりした。急にあんなことをしてくるなんてひどい。つき合っているわけでもないし告白だって断っているのに。
でも、嫌じゃないと思っている自分もどうかしていると思う。
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