3人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
ここのところずっと、キャンディを持ち歩く日々だ。残りが少なくなったらコンビニやスーパーで買い足す。何をやっているんだろうと自分でも思うけれどもう日課になっていた。ほぼ毎日五十嵐くんと会うので、会ったらねだられないわけがなかった。スカートのポケットに、カバンの中に、キャンディは常備してあった。
日に日に、五十嵐くんのキスも変化していった。頬にしていたキスは額にしたり、顎にしたり、首筋にまでされたこともあった。ただし一回だけ。けれど日に日にくちびるがくっついている時間が長くなったように思う。
もちろん誰にも秘密だ。人気者の生徒会長とこんなことをしているなんて誰かに知られたら終わりだ。でも、どうしてかやめられなかった。
「ねえ、どうして私なの?」
「どうして、って?」
キスをされるたびにあまりに気になって聞いてみることにした。告白はされたけれど、そういえば理由は聞いていなかった。断る理由を聞いてくるくせに海人から好きな理由は聞いていない。
「どうして……その、私なんか」
「好きだって?」
「っ……そ、そう。五十嵐くんかっこいいし人気なのに」
五十嵐くんだったらいろんな女の子と付き合うことができると思う。わたしみたいに地味な女じゃなくて、もっと可愛い子なんかいくらでもいる。
「内緒です」
「え」
「俺だけの大切な思い出なので」
「なにそれ……」
教えてくれないとなると余計聞きたくなる。むしろ理由があるのかと疑いたくなるくらいだ。小学校の時の思い出だけで好きだと勘違いしているだけなんじゃないかと思ってしまう。
ずい、と顔を近づけてくる。
「優先輩、なんで知りたいと思ったんですか?」
あまりの近さに仰け反る。
「やっと俺のこと、好きになりました?」
目の奥まで見つめてくるようなひとみ。
学校の女子生徒たちの憧れの存在が、わたしを見つめている。やっぱり顔は悪くない。というよりもかっこいい。わずかに幼さが残った笑顔もかわいい。成績優秀スポーツ万能の生徒会長。そんな人に想われているなんて夢ではないか。何度も考えたことだ。でも何度考えても理解ができないことだった。
わたしは成績は良いにしても、その他はてんでダメ。特別かわいいわけではないしスタイルだって普通だ。他の女性みたいにメイクすらしていないしなんの努力もしていない。
考えているだけで自信がなくなっていく。
「……もう一回キスしていいですか?」
見つめ合ったままさらに近づいてくる。吸い込まれるような視線に引き込まれそうになるが、わたしの理性は強い。
「っ、だめ!」
ガタリと席を立つ。もう今日お願いされていたことは終わっているはずだ。ここに居続けている理由なんてない。
「もう、帰るから」
想像以上に冷たい声が出てしまった。あとから後悔したけれどもう遅い。
最初のコメントを投稿しよう!