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3 ひとつじゃ足りない
「えー嘘、海人くんが?」
「ありえないでしょ。そんなの」
「でも噂になってるよ」
「校内新聞見てみなよ!」
「うわ、ほんとだ。え~ショック」
朝から校内の様子がおかしかった。わたしが学校に近づくに連れて、周りの視線が気になり、こそこそとこちらを見て何かを話しているみたいだった。校内に入ったらさらに強く感じた。聞こえてきた声にドキリとする。『海人』と聞こえてきたからだ。それだけなら前にもあったけれど、今は人には言えないことをしている自覚があったので嫌な汗をかく。
もしかして図書室でのことを誰かに見られてしまったんだろうか。
校内新聞、と誰かの声が言っていた。わたしは急いで校内新聞が張り出されている場所へと向かった。
「優先輩!」
「え? きゃっ」
早歩きで進んでいると腕を後ろに引っ張られる。引っ張られるまま、教室の中にいた。教室は暗くガランとしていて埃っぽい。空き教室のようだ。腕を引っ張った犯人を振り返ると、想像通りの人がいた。
「五十嵐くんっ!」
「シッ」
人差し指を口元に当てた五十嵐くんの姿があった。めずらしく焦っているようだった。
「先輩、どこへ行こうとしてたんですか」
「校内新聞を見に……」
「やめてください。あそこに行ったら餌食だ」
やっぱり、何かバレてしまったんだ。
二人の秘密が。
「先輩ごめんなさい。誰かに見られてたみたいで、校内新聞に載ってしまいました」
「えっもしかして私たちの……あの」
キスが? と言おうとして恥ずかしくて口ごもる。
「いえ。キスは大丈夫です。普通に二人きりでこっそり話していたのが見られていたらしくて、優先輩を巻き込んでしまいました」
「普通に話してるだけで?」
「はい。なんか根も葉もない噂を……あ、これです」
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