3 ひとつじゃ足りない

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 がさ、と音を立ててくしゃくしゃになった新聞を渡された。校内新聞だ。二人して床に座り込み、「ここです」と示された場所に目を滑らせる。 『極悪生徒会長』 『生徒会長という立場を利用してあんなことやこんなこと!』 「な、なにこれ」  あまりにも酷い内容に呆気にとられる。しかも、わたしが予想していたこととは違う、五十嵐くんのことを悪く書かれたものだった。 「さあ。俺が生徒会長という立場を利用して、優先輩とか他の女に手を出してるって話らしいですよ。まったく誰がそんなことを言い出したのか。俺は優先輩以外の女子と二人きりになった覚えはないですよ」  記事に書いてあるのは目の前の五十嵐くんの素行とはまったく思えないものばかりだった。確かにモテるけれど女の子に言い寄っているところなんか見たことはないし、わたしに対してだって口以外にキスしかしていない。まあ、それもどうかと思うけれど。 「どうするの? これ」 「直談判しに行きますけどね。今はちょっと騒ぎになってるから。落ち着いたら出て行こうかなって」  こんなに大変な状況なのに五十嵐くんはやけに落ち着いていた。わたしに見せる顔とは違ってやけに大人びていた。 「前の生徒会長の時も女関係で辞めさせられてたし、なんかあるのかも」 「そんな、まさか」 「だってこんな記事嘘だから。大丈夫ですよ」  そうは言っても校内でかなり騒ぎになっている。わたしのことをチラチラ見ている人だっていたし、もう五十嵐くんと話をしているだけでいろいろ言われてしまうだろう。 「私……離れたほうがいいね」 「……は?」 「もう、五十嵐くんと話さないようにするから」  話しているところを見られたらきっとまた根も葉もない噂を書かれるに違いない。せっかく生徒会長になれたのだから引き摺り下ろされるところなんて見たくない。だってあんなに学校のために、生徒のためにがんばっているのに。 「じゃあ私行くね。もうお守りも終わりにしよう」  立ち上がりスカートをはたく。寂しいけれどこうするしかなかった。うつむいたままの五十嵐くんに背を向けて教室を出ようとした。 「ちょっと待ってよ」  低い声がわたしを引き寄せる。
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