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「……はい」
声は全然違うのに、なぜか五十嵐くんじゃないかと思ってしまった。声をかけてきたのは女子生徒二人だ。ネクタイの色的に、2年生だった。見たことがない顔なので知り合いではない。嫌な予感がした。
「……あの先輩、五十嵐くんと付き合ってるんですか?」
一人の、おどおどとした女子に問いかけられる。その子はあの小説の主人公のような雰囲気を持っていた。勇気を出してライバルの女の子に声をかけているように見える。それから隣には、彼女の親友。
「この子、五十嵐くんのこと本気で好きなんです!」
今まで五十嵐くんのことでこそこそと噂されたことはあった。でも、誰も直接声をかけてこなかった。彼女が初めてだ。だからこそ本気が伝わってくる。わたしは五十嵐くんのためにそれほど、本気になれるのかな。
わたしはこの子より、五十嵐くんのことが好きなのかな。
「す、好きじゃなかったらちゃんと断ってあげてください……。か、かわいそうです!」
手をぎゅっと握って勇気を出しているのがよくわかる。
ズキっと胸が痛んだ。
わたしだって好き。そう言いたいのに言葉にできない。本気の彼女を見て、自信がなくなってしまった。
「お願いします!」
そう頭を下げて、彼女たちは去ってしまった。わたしは静かな廊下で立ち尽くす。もしかしたら主人公はわたしではなくてあの女の子だったのかもしれない。わたしはただの邪魔者。そう考えるほうが納得できた。悲しいけれど。
しばらくしてようやく身体は動き、帰ろうと歩き出す。
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