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ゲタ箱について靴を履き替えようとかがんだところで、ころりと何かが落ちた。視線を向けると、キャンディだった。いつもスカートのポケットに入れているキャンディが落ちたみたいだ。
それを見てぎゅっと胸が締め付けられ、くちびるをきゅっと引き結ぶ。と同時に、むかむかと腹が立ってきた。わたしはまだ気持ちがはっきりしていなかったのに、急にあんなことをするなんて。そのあとすぐ目の前から消えるなんて。
ひどい。ひどすぎる。
あんなに葛藤していたのに。惹かれていたけど、自分ではつり合わないと諦めていたのに。はやく諦めてくれたらよかったのに。
最後にこんな痕を残すなんて。
わたしは上履きを脱いだまま、ゲタ箱を探す。五十嵐くんのゲタ箱だ。
クラスは2年A組。五十嵐海人。すぐに見つけることができた。ゲタ箱を開けると、彼のスニーカーがあった。あんなに探したのに、まだ学校内にいるみたいだ。でももう探す気にはなれなかった。
わたしは彼が来る前にと、急いでカバンの中に入っていたキャンディとスカートのポケットに入っていたキャンディを全部入れた。五十嵐くんの靴はキャンディでいっぱいになった。
せっかくいつもキャンディを持ち歩いていたのだからこれくらいは許されるだろう。なんていったって、今日も持ってきていたのだから。
ひとつ残らずキャンディを入れてから鼻息荒く靴を履いた。早足で校内を出る。
わたしは興奮していた。
五十嵐くんに復讐まがいのことをしてやった、というせいせいした気持ちと、これで終わりだという思いで息を荒くさせていた。
「……う」
泣くのはまだ早い。まだ校庭の途中だ。部活動で残っている人やおしゃべりに夢中な女子生徒たちが残っている。こぼれそうになった涙を拭い、前を向いて足早に歩く。家に帰るまで、泣くのは我慢だ。
「優先輩!」
「……っ」
背後から名前を呼ぶ声が聞こえた。今度は間違いじゃない。心臓が飛び出すかと思った。そろりと振り返るとわたしに向かって走って来る五十嵐くんの姿だ。
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