5 変化したふたり(終)

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5 変化したふたり(終)

「明日からどうなるかな、学校」 「何がですか?」 「私たちのこと」 「ああ」  もう校内に生徒は残っていない。部活も終わったみたいだし、職員室に明かりがついているくらいだった。二人は手をつなぎながら先ほどキスをした校庭を歩く。やっぱりまだ不思議な感じがする。小学生の頃の五十嵐くんとは別人のような人気者と、いま手をつないでいる。 「俺の噂のことですけど、もう解決してるから平気です」 「え? だってさっきキスを目撃されて……」  さっき見られたばかりなのに? 見られてからは二人で生徒会室にいたからなにもできないはずだ。 「先輩が休んでる間に、校内新聞が新しくなってたの知りません?」 「み、見てないけど」  あえて見ないようにしていた。周りの生徒たちの反応も静まっていたから不思議には思っていたけれど五十嵐くんが弁解でもしたのだろうか。 「俺は女遊びはしてません。優先輩とつき合ってます、っていう記事ですよ?」 「え、ええ!」 「俺が片思いしてようやく叶ったんだから邪魔する人は許しません、ってちゃんと書いてもらいました。で、すぐに差し替え」 「…………すごい」  休んでいる間にそんなことがあったなんて。さぞかし女子生徒の絶叫が校内に響き渡っただろう。 「あれ? でもその時は付き合ってなかったのに……」  校内新聞が出た直後は、とんでもないことになって最悪な事態にまでなったはずだ。もうきっと話すこともないんだろうなと絶望していた時だ。その時に彼は、そんなことを話していたなんて。 「はい。ハッタリです。優先輩がゲタ箱にキャンディ詰めてくれたおかげでさっそく現実になりました」 「でもあの子は……」 「あの子?」 「うん。五十嵐くんを好きじゃないなら振ってくださいって、女の子に声をかけられたの」 「俺のことをよく見てる人はもしかしたら気付いたかもしれないですね」  その言葉に、わたしは嫉妬をする。それほど彼女は本気だったのだ。でも、もう負けない。自信を持って五十嵐くんのことが大好きだって言える。 「もちろん、もう現実になったので、誰にも何も言わせません」  そう言って笑う五十嵐くんの顔は、立派な生徒会長の顔だった。
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