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「あの泣き虫くんが嘘みたい」
「優先輩のおかげです」
なんだかだいぶ頼もしくなった。こんな人だったっけ、と思うほどに。さっきまでとどこか表情が変わった気がする。
「そんなに強くなったならもうお守りはいらないかな」
「いります!」
すばやくはっきり返されて笑ってしまった。
「キャンディ?」
「はい。それと、先輩がずっと隣にいてくれることが俺のお守りです」
「…………」
「優先輩真っ赤だ」
「ば、ばか」
相変わらず恥ずかしげもなくそういうことを言う。そういうところが困るのだ。惹かれてしまうから、困る。
「先輩は何がいいですか? お守り」
「私は変わらなくていいよ」
「え? キスでいいんですか?」
「……うん。キスがいい」
「うっ」
「ど、どうしたの?」
立ち止まり胸をぎゅっと押さえてかがみこむ五十嵐くん。急にどうしたのかと駆け寄ると、わたしを見上げてふにゃっと笑った。やわらかい微笑みだった。
「あまりに可愛すぎて……先輩変わりすぎでしょ」
「五十嵐くんのおかげだよ。……大好き」
「っ!」
真っ赤な彼を見て、自然に口元がゆるんだ。
かわいいかどうかは別にして、五十嵐くんがまっすぐに気持ちを伝えてくるから、やっとわたしも変わることができたと自覚している。
あれほど困ると思っていた彼に対しての感情がいつの間にか変わっていた。というよりも、あまりに世界が違いすぎるから怖かった。だけど怖がってばかりいてはだめだと、あの小説を読んで気がついた。彼といて、気がついた。
「先輩先輩」
「ん?」
しゃがんだままの五十嵐くんに腕を引っ張られて一緒にしゃがむ。頭を引き寄せられ、くちびるにキスをされた。
へへへとしあわせそうに笑う五十嵐くんに、わたしも照れながら笑い返した。
ゲタ箱に詰め込んだキャンディは五十嵐くんにあげるとして、明日からまた新しいキャンディを用意しなくちゃ、と考えながら。
終
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