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五十嵐くんはわたしが教室に着くまでついて来る気だろうか。二年生は階が違うのだから急がないといけないだろうに。
「それで、優先輩、返事決まりましたか?」
ドキッとした。五十嵐くんはことあるごとに告白の返事を確認してくる。あれからよく考えたが、答えは一つだった。
「え、えっと~……ごめんなさい」
こんなキラキラした人とはどう考えてもつき合えない。世界が違いすぎる。こうやって声をかけてもらっている間も周りの視線は不審なものでいっぱいだった。
わたしは誰が見ても地味だといえる見た目で、制服は校則通り着こなし、スカート丈も標準の膝下。真っ黒な髪は肩にはつかないおかっぱヘア。本来だったら誰にも気に掛けられないような存在なのだ。
目立つことが嫌いなわたしはこのまま卒業をするつもりだったのに、彼のせいでわたしの生活は変わってしまった。五十嵐くんと話している時だけは女子生徒から注目を浴びてしまう。見られたくないのに、痛いくらいの視線を感じる。一人で廊下を歩いている時でさえ、たまにひそひそ声で噂をされる。
「そっかぁ。まだ考え中か」
「ち、違うってば……だから、ごめんって言ってるでしょ」
告白を断っているはずなのに、五十嵐くんは引き下がってくれない。何度「ごめんなさい」と言ったことか。そのたびに彼にかわされてしまう。
今日も不毛な会話だと、ため息を吐いた。
「五十嵐くん、もうあっち行って」
「どうしてですか?」
「だって……みんな見てる」
「え?」
五十嵐くんはようやく気づいたのか、周りを見渡してハッとした。わざとらしく咳払いをして、姿勢を正していた。先ほど壇上に上がっていた生徒会長の顔つきに変わる。
「五十嵐くん、挨拶してる時と全然違うね」
「そりゃそうですよ! 先輩と話してる俺が本物です」
「じゃあ生徒会長は嘘の姿なの?」
「いや、そういうわけじゃなくて~」
「ふ」
情けない声を出す五十嵐くんに、つい吹きだしていた。手を当てて口元を隠すけれど、彼にはバレてしまったみたいだ。
「先輩笑った!」
「わ、笑ってないよ!」
どうして見られたくないのはわからないけれど咄嗟に否定していた。五十嵐くんと打ち解けているのを周りに見られるのも怖い。
「も、もういいでしょ。じゃあね」
「待って。先輩、ひとつだけ」
「え?」
背を向けようとすると手首を掴まれる。
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